大腸癌は昔は日本人には少なかったのですが、近年急増しています。その原因として考えられているのは、食生活の欧米化です。脂肪摂取が多い国ほど大腸癌が多い、と疫学的に知られています。
とくに、高脂肪食で低残渣食(ていざんさしょく:便が少なくなる食事)が大腸癌の原因と考えられています。このような食事は便秘になりやすく、食事中の発ガン物質が腸の粘膜と接する時間が長くなります(図1)。腸粘膜の遺伝子にキズがつきやすくなり、その結果として大腸癌ができる、と考えられています。
また、脂肪の多い食事は肥満につながります。脂肪細胞は内分泌細胞とおなじように、細胞分裂を促すホルモン類似物質や細胞増殖因子を分泌し、このため発ガン性が高まる、とも考えられます。
なお、便秘症の人が大腸癌になりやすいかどうか、2007年に興味深い報告が厚生労働省からなされました。そもそも便秘に明確な定義もありません。単純に便の回数だけで、大腸癌の危険性が判断できるわけではない、ということです。大腸癌の原因 補足の頁を参照してください。
癌にかかわる遺伝子を車にたとえると、この遺伝子異常が発癌と関連しています(図2)。
で車の暴走、つまり癌化がおきます。
大腸癌ができるためには2とおりの道筋がある、と考えられています。「良性のポリープである腺腫(せんしゅ)がすこしずつ悪性化してついには大腸癌になる説;adenoma carcinoma sequence」と、「癌は最初から癌である説;de novo cancer」です。
それぞれについて、すこし話は難しくなりますが説明しましょう。
良性のポリープである腺腫に、遺伝子のキズがいくつも重なり大腸癌になるという考えで、多段階発ガンモデルとして知られています(図3)。
家族性大腸腺腫症(FAP)では、APC遺伝子両方の異常にひき続き、K-ras遺伝子(発ガン遺伝子)、p53遺伝子(ガン抑制遺伝子)、DCC遺伝子といった遺伝子が段階をおって変異し、悪性度が上がる、とされています。
大腸癌への最初のステップは、APC遺伝子の変異です(図4)。正常腸上皮から腺腫ができます。
つぎに発ガン遺伝子とされるKras遺伝子が発現すると増殖のスピードが速くなり(アクセルの故障 図5、ガン抑制遺伝子であるp53遺伝子が変異して失活すると癌化する(ブレーキの故障 図6)とされています。進行癌になるとDCC遺伝子の変異がおこり、肝転移をきたしやすくなります(図7)。
それまでは隆起型の大腸癌しかみつからなかったのが、内視鏡診断の進歩により平坦陥凹型の早期癌が日本で次々とみつかるようになりました。
これらの中には、非常に小さな癌でも腺腫成分がみられないものがあったり、遺伝子解析をするとK-rasの発現がみられない例もあります。つまり、FAPの古典的な多段階発癌のモデルとは違うガンへの道があるわけです(図8)。
細胞が分裂するたびに、遺伝子であるDNAがコピーされます。このコビーがうまくできずに、誤ってコビーされたときに、間違った個所を正しいコビーをもとに修正するのが、DNA修復遺伝子のはたらきです。
最近の研究では、遺伝性でない大腸癌では、DNA修復遺伝子であるhMLH1そのものの変異ではなく、hMLH1のプロモーター領域がメチル化することで、うまくこのDNA修復遺伝子がよみこまれないことがわかってきました。
かんたんに言えば、古典的な発ガンの考え方(大腸粘膜の遺伝子変異が原因)を設計図の異常とすれば、正常の設計図がうまく読めないためにできる癌があるのです。
遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(HNPCC)では、DNA修復遺伝子であるhMLH1,hMSH2などの変異(メンテナンス不良)により癌ができる、と考えられています(図9)。
HNPCCの臨床基準としてはアムステルダム基準が知られています(図10)。
ここでいうHNPCC関連腫瘍とは、大腸癌、胃癌、子宮内膜癌、腎盂尿管癌、小腸癌などをさします。