結腸癌と同様に、直腸癌の治療でもっとも効果が期待できるのは外科手術です。同じ大腸癌とはいえ、結腸癌と直腸癌の手術には大きな違いがあります。標準的な直腸癌の外科治療について、解説します。
直腸癌でも、上部の腹膜より上にある癌では、結腸癌と同じで病巣を切除し腸と腸を吻合することができます。
しかし、腹膜翻転部より下の下部直腸癌では、肛門のすぐ上でむりにつないでも肛門が機能しないため、口側の腸をおなかの上に人工肛門として出す、マイルスの手術(腹会陰式直腸切断術 )となることがあります(図1)。
大腸癌の進展でしるしたように、直腸では下腸間膜動脈(IMA)へむかうリンパの流れとは別に、中直腸動脈(MRA)から骨盤神経叢をつらぬいて内腸骨動脈にいたる側方リンパ流があります。(図2 さらに下方で肛門管癌では下直腸動脈から陰部動脈にそうリンパ流もあります=肛門の解剖参照)。
先のリンパ節郭清とかかわりますが、骨盤の奥には排尿や性機能をつかさどる神経がたくさんあります(図3)。リンパ節を十二分に郭清しようとすると、どうしても骨盤内の自律神経がダメージを受けます。癌の進行度に応じて、必要なだけのリンパ節を切除し、自律神経の温存に努めます。
お腹とおしりの両方から、癌を直腸、肛門をひとかたまりに切除する方法です(図1)。むかしは直腸癌の50%がこの手術でしたが、いまでは全国的に10-20%まで下がっています。さらに近年ではどんどんと低位で吻合し、人工肛門となる方が減っています。
しかし、肛門管にかかるような位置の直腸癌では肛門は温存できません。さらに腫瘍が膀胱、前立腺、精のう、尿道、子宮、膣などの骨盤内臓器にもかみこむと(直接浸潤=しんじゅん)、これらの臓器もいっしょに切除します。とりわけ、男性では腫瘍が尿路系に浸潤すると、膀胱や前立腺も合併切除する場合があります(図4 骨盤内臓全摘術)。
直腸癌で肛門を温存し、人工肛門にせずに腸をつなぐ術式です。このうち、低位直腸癌で吻合することを低位前方切除術といいます(図5)。
この手術は急速に増えてきましたが、それは(1)肛門側の断端は、進行癌でも2cm以上とっても手術成績が変わらず(図6)、(2)2重に自動吻合器を使うこと(Double Stapling Technique)で、肛門のすぐ近くでも腸をつなぐことができるようになったためです。
2010年前後よりさらに肛門に近い癌についても 肛門を温存する術式が工夫されてきました。腫瘍が早期癌の場合に限りますが、お腹を切ってリンパ節を掃除したり直腸を遊離する操作は腹腔鏡で行い 肛門括約筋を温存する形で腫瘍の周囲を剥離します。残ったわずかな肛門側と、口側の大腸との吻合は 肛門側より腸を翻転した上で 手縫いで繋いでいきます。ただ、あくまで癌の進行度が早期の場合だけで 進行癌では人工肛門を余儀なくされてしまいます。
下部直腸で、肛門管に近い早期癌にかぎり、肛門を広げたり肛門括約筋を一部切開して腫瘍を切除することもあります。仙骨側(後ろ側)より切除する場合は後方切除術とよびます(図7、図8)。
リンパ節の郭清は経肛門、経括約筋手術ではまったく、後方切除術でも直腸周囲のリンパ節しかできません。しかし適応をえらべば、小さな手術ですみ、回復も早く合併症も少ない利点があります。
最近は経肛門手術のひとつとして、特殊な器具をもちいて内視鏡下に早期癌を摘出する試みもおこなわれています。