肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)はその名前の通り、肛門のまわりに膿がたまる病気です(図1)。外傷や異物などがのぞけば、大部分は肛門腺への細菌の侵入が原因です。
直腸洞の下端にあるポケットに肛門腺が開いていますが、ここへ奥深くまで便が侵入し炎症をおこすのです。肛門腺は長さ、深さ、形がさまざまなので、膿瘍は肛門、直腸周囲のいろいろなところに形成されます(図2)。
ただし、クローン病の1症状としての痔瘻や、糖尿病や免疫不全などの原疾患の有無も重要です。非常にまれに、ガス壊疽をきたす(Fournier's gangrene=フルニエ症候群 図3)ことがあります。壊疽性筋膜炎とも呼ばれ、緊急手術をしないと生命にかかわります。
内痔核は性差がありませんが、肛門周囲膿瘍や痔瘻は男性に多く、特に乳児痔瘻は男子の病気です。
「2,3日前からおしりが痛む感じがあったのが、昨夜から急に熱が出てきて、急におしりの痛みが強くなりました。肛門のまわりが赤く腫れてきて、痛くて座ることもできず、一睡もできません」というのが典型例(図4,図5)。ただし、深いところへ膿がたまったときは、熱と肛門の奥の違和感だけのこともあります。
出血することはまれで、ときに自然に破れて血膿がでます。発熱が特徴で、熱が出る痔となれば、肛門周囲膿瘍をまず考えます。痛みは膿のたまる場所や量によりさまざまです。
膿がたまるスペースによりいろいろな型があります。内外肛門括約筋の間にたまるもの、粘膜下や皮下にたまるもの、坐骨直腸窩にたまるもの、骨盤直腸窩にたまるものがあります。
右図6はよく膿のたまる部位です。口に近いものを低位とよび、腸や皮膚に近いものを浅い、とよびます。もっとも多いのは、(1)高位や(2)低位で内外の括約筋の間に膿がたまる形です。浅いところに膿がたまるのは(3)粘膜下、(4)粘膜皮下、(5)皮下とよびます。外括約筋のさらに外側にたまる(6)坐骨直腸窩は、切開後も痔瘻になる確率が高く、適切な切開が重要です。(7)骨盤直腸窩にたまる形は珍しいですが、治療に難渋します。
ほとんどの肛門周囲膿瘍は切開して膿をださないと治りません。また肛門周囲膿瘍を切開後、切開した創から膿が出続けると、痔瘻(じろう)となります。ですから、その後に痔瘻になることも考えて適切な切開をすることが重要です。
とくに坐骨直腸窩膿瘍は肛門周囲の左右に深く広がることが多いので、サドルブロック麻酔(腰椎麻酔の一種)で大きめに切開し、柔らかい管をいれます。局所麻酔で中途半端な切開をすると、痔瘻になる可能性がさらに高くなります。