ある臓器に動脈の血がいきわたらないことでおこる病気を虚血性疾患といい、心筋梗塞や脳梗塞がその代表です。大腸の動脈がふさがっておきる「腸梗塞」が虚血性大腸炎(きょけつせいだいちょうえん)です。
大腸の動脈が何らかの原因でふさがることでおきます(右図1)。不整脈や動脈硬化が原因となり、高齢者におきやすい病気です。若い人では動脈のけいれんと思われています。
胃腸の動脈は外側から内側に向かって流れますので、腸の内側がいちばん動脈血の末端になり、粘膜が炎症をおこし真っ赤になり、腸に沿って縦に走る潰瘍ができます(右図2)。
さいわい、大腸は心臓や脳と違い、周囲との血管の交通が豊富なので、ある領域の動脈がいっとき詰まっても、時間がたつとまわりから血がまわってきて(あるいは動脈のけいれんがほどけて)、多くは後遺症も残さず治ります。
虚血性大腸炎は大腸のどの部位にもおきますが、とくに多いのが下行結腸です(右図3)。次に多いのがS状結腸直腸の境目です。これらの場所は、大腸を栄養する主な動脈(右図3のa,b,c)のつなぎめにあたり、血流が乏しいためとされています(解剖2 大腸の解剖のページ参照)。
高齢者が「朝から急に左下腹部が痛くなり、トイレへ行ったら赤黒い便がでてびっくりした。」というのが典型例です(図4)。大腸憩室炎と違って、下血がすぐおきること、発熱がすくない傾向があります。
多くは数日で出血がおさまり腹痛も消えますが、非常にまれに治る過程で腸が狭くなったり(狭窄型 右図5a)、潰瘍部で腸に穴があいたり(壊疽型 右図5b)します。
大腸専門医なら症状だけで診断がつきますが、診断を確かにするために緊急大腸内視鏡をおこないます(図6)。大腸に縦に走る潰瘍が1条から3条でき、いちばん変化が強いところで全周性に真っ赤になっていればまずまちがいありません。なお、抗生物質の副作用でおきる薬剤性大腸炎も内視鏡像が似ており、内服薬の有無が重要です。
注腸検査でも特徴的な所見はありますが、穿孔(せんこう=あながあくこと)の危険性があることから、いまではあまりされません。
軽症では入院の必要はありません。出血が多かったり潰瘍が広く深いときには、入院して大腸の安静を目的に絶食にする場合もあります。ただし、ほとんどは積極的治療を必要とせず、腸の安静を保てば1−2週間で自然に治ります(図7)。
少ないですが、狭窄型、壊疽型では手術を要します。とくに壊疽型は症状が急速に進み、もともと高齢で他疾患を持っている患者さんが多いので、緊急で手術します。