肛門部の炎症性疾患でいちばん多いのは、痔瘻と肛門周囲膿瘍ですが、ほかにも炎症性疾患はあります。肛門周囲におきますが、正確に言えばほんとうの意味での肛門病ではありません。
膿皮症(のうひしょう)は言葉のとおり、皮膚が膿む病気(図1)です。肛門周囲におきたときは、複雑痔瘻との鑑別が必要になります(痔瘻が同時にある例が60%という報告もあり)。
多くは体力や免疫が低下した人の臀部から肛門部にかけて皮膚に感染がおきます。原疾患として重要なのは糖尿病で、血液や尿検査が必要です(図2)。
臀部全体にひろがることもあり、皮膚が感染により分厚くなり変色します。ところどころに穴が開き、そこより悪臭をはなつ膿が出ます。
いちばん重要なのは原疾患の治療です。合併する糖尿病の管理をまず行い、血糖のコントロールをできるだけしてから(入院を要することも多い)手術します。手術は病巣を剥離して切除しますが、皮膚欠損が大きくなるときは大腿部などから採った皮膚を植皮します(図3)。
毛巣洞炎(もうそうどうえん)は、肛門部の背側、臀部の割れ目に炎症を起こし膿がたまる病気です(図4)。膿のたまったスペースには、毛が混入していることが多いことからこの名がついています。
複雑痔瘻との鑑別が必要ですが、熟練した外科医がみても簡単に診断がつきます。毛深い男性に多い病気です。
原因にはむかしから2つの説があります。ひとつは先天説で、体毛の原基が皮膚に開がずにもぐりこんでいて、年をとるにつれ育ってきてわかる、という説。もうひとつは毛穴があとから下へもぐりこむ、という考え方です。
膿のたまる道は仙骨の裏までつづいていることもあります。必要であれば、術前にCT,MRIをとります(図5)。
仙骨後面に痛みが出て徐々に腫れてきて、数日で大きくなり、歩いたり坐ったりするにがつらくなります。自然に破れて下着に膿がつくこともあります。
手術以外で治りません。ときに深くまで膿のトンネルがつづきますので、術前にCT,MRIで広がりを見ます。できるだけ奥までトンネルを追いかけ切除します。もともとすわると突っ張り、皮膚に余裕がない場所なので、縫合するときに工夫が必要です(図6)。