肛門部に明らかな変化がないにもかかわらず、直腸や「肛門の奥」が痛む病状をさします(図1)。直腸以外に痛みの原因があるときを症候性(しょうこうせい)、明らかな器質性変化がないときを特発性(とっぱつせい)と分類します。
痔瘻や肛門周囲膿瘍など、肛門よりも高位で炎症がおきることもありますが、こわいのは直腸由来の腫瘍、たとえば直腸癌です。大腸内視鏡と、経験豊富な肛門科での診察とが必要です。
仙骨など骨盤骨の骨折、炎症も原因になります。外傷歴の有無が大事です。
女性の場合、子宮、卵巣の腫瘍で肛門痛だけがおきることはまずありません。多くは下腹部痛、便秘、不正性器出血、月経異常などをともないます。また、発熱をともなうときは骨盤腹膜炎を疑います。婦人科の受診が必要です。
男性の場合は、前立腺の腫瘍や炎症で会陰部に鈍痛がおきます。同時に排尿困難など、尿路系の症状も出ます。もちろん泌尿器科受診が必要です。
脊髄ろうは第3期以降の後期梅毒にともなう神経変性です。昔と比べ、現在はほとんど見られません。
原疾患の治療が優先されます。対症的に鎮痛剤を投与することもあります。
原因が明らかでない直腸痛で、従来は肛門神経症として片づけられていたものです。陰部神経の刺激症状のため、という説もあります。
さまざまな分類が試みられていますが、代表的なものを記します。
会陰部の炎症が原因の陰部神経痛と考えられています。典型的には、「夜間に急に肛門の奥の方に激痛が走り目が覚め、その後じゅうぶん眠れない」といった症状を呈します。
肛門診で上部肛門管の左右、前方を押すと痛みが誘発されることがあり、この場合は「陰部神経痛」とよぶこともあります。
肛門挙筋(恥骨直腸筋をふくむ)の過緊張が原因で、直腸痛と同時に便秘などの排便障害もともないます。
明らかな原因が特定できないので、対症療法となります。精神的要因がつよい例も多いので、鎮痛剤だけでなく精神安定剤も有用です。
近年、抗てんかん薬に類似した鎮痛剤が 帯状疱疹後神経痛を適応として販売されました。厳密に言えば保健適応外かも知れませんが 原因不明の直腸痛にも一定の効果が期待できます。