この頁では、さまざまな痔瘻でどのような手術をするか、について各論を書いています。かなり専門的で難しい内容です。手術原則については、前の頁をごらんください。
痔瘻(じろう)はそのトンネルの走り方で図1のように分類されていますが、その型により手術の仕方が違います。痔瘻の分類については図1に再掲しますが、簡単にいうとIからIVとだんだん複雑になり、手術が難しくなります。また、術後の再発の頻度も増えます。
開放術式、くり抜き法、シートン法については前頁を参照してください。図2以下では、痔瘻のトンネルを側面から見た図と、正面から見た図をあらわしています。
図2のように肛門腺と関係ない浅いトンネル(矢印)ができている状態です。I型の浅い痔瘻はかんたんな開放術式(図3)で治します。トンネルの屋根の部分を大きくきりとり、奥から肉がもりあがるのを待ちます。再発もまずなく日帰り手術で十分です。
ただし、このタイプは合併する裂肛の手術なども行うときもあります。
II型では痔瘻の80%をしめ、内外の肛門括約筋の間をトンネルが走るタイプ(筋間痔瘻)です。手術は2次口の位置で変わります。
低位筋間痔瘻(図4)でも後方へ2次口があるものは、開放術式(図5)で十分です。肛門括約筋は一部切断されますが、後遺症をのこすことは通常ありません。手術時間も15分ほどで、麻酔法に留意すれば日帰り手術で可能です。
低位筋間痔瘻でも後方以外の前方や側方に2次口があるものに開放術式をすると、ときに術後に肛門括約筋が緩むことがあります。できるだけ括約筋の損傷を防ぐ術式であるくり抜き術式を行います(図6)。日帰り手術の場合はシートン法も選択肢です。
高位筋間痔瘻(図7)は原発口から上(口側)にらせん状にのびていき、腸管内へ開口しないものが多くあります。このときはおしりからは膿が出ず、肛門の奥深くの不愉快な感じや熱がつづきます。
できるだけトンネルをくり抜き、炎症組織をとりのぞきます(図8)。トンネルが深いときは原発口も大きく切開、開放することもあります。
膿のトンネルが括約筋をこえて直腸の後方奥深くの脂肪組織(コートニー腔)まで広がったタイプ。トンネルは何本も枝分かれし、出口(2次口)は側方や前方にいくつも開きます(図9)。枝分かれが多いほど、手術も大変ですし、再発も多くなります。左右片側のみの時をさらにIIIU、両側にまたがる時をIIIBと分類します。
単純な開放術式では括約筋の損傷が大きいので、くり抜き術式が中心になります。原発口側の膿のたまりを十分に掻き出して閉鎖し、2次口側もしっかり炎症組織を掻き出して管を入れることがふつうです(図10)。
2次口が肛門より距離があるときは、まず2次口周辺よりトンネルのまわりをはがしていきます。できるだけ肛門側まで切除してくり抜いていきます。肛門側は原発口まわりの肛門粘膜、皮膚を切開し、コートニー腔の膿がたまった炎症組織を搔爬します(図11)。
珍しいタイプで、坐骨直腸窩痔瘻がさらに口側に進展し、肛門挙筋を越えて腹膜の下まで広がったもの。完治させるためには病巣を掻き出しますが、掻爬しすぎて肛門挙筋とくに恥骨直腸筋をいためると高度の排便障害をきたします。
手術のあと絶食の上、抗生物質の点滴や高カロリー輸液が必要になります。日帰り手術での治療は無理で、長期の入院が求められます。手術後の再発も多く、治すのに難渋します。
治療せず10年以上経過した痔瘻から悪性細胞がでることがあります。特に複雑痔瘻で切開しても痛みが引かないものは要注意です。押すとゼリー物質が出るときもあります。組織検査を繰り返しすることが大事です。
手術は患部を皮膚とともに十分切除し、人工肛門とします。ただし低位直腸癌との大きな違いは、鼠径部のリンパ節へ転移することが多く郭清が必要となることです。