痔瘻(じろう 図1)は手術しないと治りません。肛門の手術は簡単な手術が多いですが、痔瘻は病状により予後が変わります。
痔瘻の手術のポイントは3つあります(図2)。図に一番多い低位筋間痔瘻(IIL)を例に示します。痔瘻の分類については前頁を参照してください。
このうち、特に問題になるのは括約筋の処理です。原発口と2次口の処置を完全にしようとすると、括約筋が損傷する範囲が大きくなりがちです。内痔核で肛門括約筋がきれることはまずありませんが、痔瘻の手術では括約筋を触る必要があり、損傷の程度により術後に肛門がゆるむ可能性があります。
原発口と2次口の処理を第一に考えると、原発口と2次口の間を大きく切り開き、あとは傷が中から肉がもりあがるのを待てば、一番かんたんで間違いがありません(図3 open method/ 開放術式)。
ただし、括約筋がうすい場所で原発口と2次口を完全に切り開くと、括約筋が広い範囲で切れてしまい手術後に肛門のしまりが悪くなります。そこで、原発口と2次口からそれぞれトンネルをはがしていき、括約筋の切れる範囲をできるだけ小さくする方法 (図4 coring out method/ くり抜き術式)が考えられました。
くり抜き法は難しい手術で施設により再発が多い方法でもあります。また、坐骨直腸窩痔瘻(図5)など広い範囲に複雑なトンネルがわたっているとき、これをすべて処理しようとすると、どうしても大きな創になり長期間の入院を要します。
くり抜き術式の欠点を解決する手段として、用いられている方法がシートン法(seton method 図6)です。トンネルの全長にわたりヒモを通し、これを縛ってすこしずつ開放術式とするものです。一時に開放するのと違い、括約筋が切断されながら治っていくので、最終的な括約筋の損傷が少なくすみます。
通すヒモは輪ゴムがよく使われますが、インドでは薬物をしみこませた特殊な糸クシャラスートラ(Kushara Sutura・残念ながら、日本には医薬品としては輸入されていません。)を使いほとんどの痔瘻をこれだけで治します。
糸をしめる強さと糸がかかる距離で差はありますが、数日から数週間かけてゆっくり創が治ります。