腹腔鏡手術の将来における問題点

腹腔鏡手術の意味するところ=医療サイドから

以上に述べてきた「かなりの進行癌をのぞくと腹腔鏡手術と開腹手術では成績が変わらない」というのは、実は大きな前提があります。それは、これらの治療成績は大腸癌手術について日本全国のトップクラスの病院での成績だ、ということです。

実は腹腔鏡手術の適応拡大は、医療サイド、患者サイドにとって福音だけではありません。大きな問題点がかくされています。

大腸がんは本来、消化器癌の中ではもっとも予後の良い(たちが良く治りやすい)癌です。最近は術後の再発についても、積極的に外科治療をしたり、抗癌剤の使い方が進歩したこともあり、大腸がんの手術成績もさらに良くなっています。

このため中小病院でも経験の積んだ医師のもとでは大病院と遜色のない治療成績をあげていました。しかし、腹腔鏡手術は開腹手術以上に経験が必要となりますので、もはや腹腔鏡手術がスタンダードとなる早期癌は、(腹腔鏡手術の導入にはコストがかかるため)中小病院での手術ができなくなります。

結果として、大腸がん全体の大病院での手術比率が上がっていくことでしょう。しかし、腹腔鏡手術は開腹手術と比べると手術時間が明らかにかかります。たとえば先の王監督の早期癌の手術は9時間ほどかかったと聞きますが、胃癌の早期癌なら開腹手術なら2時間内外で終わる手術です。開腹手術なら3人が手術できる時間で、一人しか治せないわけです。

大腸がんは見つかったけれど=近未来?

大腸がんの大病院への集中、外科医の負担増加は必然です。さらに一般的には知られていませんが、昨今は外科医へなろう、という医学生が激減しています。医療事故や医療訴訟の増加、また昨今の「医師性悪説」を思わせるマスコミ報道をみれば、「今時の若い奴は」と彼らを攻める気にもなりません。

いまの状態が進めば、「大腸がんは見つかったが手術は半年待ち」という日がやってくるおそれがあります。国全体で対策を講じる必要があると考えています。杞憂でありますように。

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