虫垂炎、俗称「もうちょう」は新米外科医がはじめて人のお腹をあける、開腹手術デビューの症例でした。その昔はたいへんポピュラーな病気で、たとえば昭和50年頃(わずか30年あまり前)ならば、年間に500例の外科手術をこなす病院で200例が虫垂炎、といったことは珍しくありませんでした。

さらに昔を言えば、江戸時代末期(1世紀少し前)でも「いわゆる盲腸」は「おなかの右下を中心に膿が溜まる原因不明の難病」で、致死率が非常に高い病気でした。疫学的に発展途上国に多いが先進国では少ない病気です。本邦もそれに漏れず、今は虫垂炎の手術は激減しています。

虫垂炎の原因

むかしは「スイカの種をのみこんだら盲腸になる」というように言われていましたが、実際に手術をしてみて炎症をおこした虫垂の中に必ず便や異物がつまっているとは限りません。虫垂の循環障害、アレルギー説などいろいろ言われています。暴飲暴食や不規則な生活が誘因となります。

虫垂炎の症状と診断

症状

典型的な虫垂炎の症状の経過は「最初はみぞおちがしくしく痛みだし、吐き気をともなうようになりました。その後、じょじょに痛みが右の下腹部へ移っていき、差し込むような痛みと熱がでるようになりました。」といったものです。さらに症状が進めば、下痢や血尿をきたすこともあります。

診断

典型的な経過をとるものでは臨床症状と腹部所見だけで疑い、さらに血液検査で炎症の数字があがっていれば診断がつきます。最近では、補助画像診断として超音波検査や腹部CT検査も用いられます。

虫垂炎の治療

内科治療

症状の軽いものでは抗生物質の服用だけで治りますが、さらに病状が進めば入院した上で絶食とし、抗生物質の点滴をします。抗生物質の進歩も虫垂炎の手術が激減した理由の一つです。

外科治療

虫垂炎の手術としては、従来よりおこなわれてきた腰椎麻酔での開腹手術と、最近になり施設により施行されている腹腔鏡手術があります。従来の開腹手術と比較したときの腹腔鏡手術の特徴をあげます。

  1. 創が小さいので術後の痛みが軽い
  2. 創の感染が少ない
  3. 入院日数が数日短くすむ
  4. 炎症の程度、癒着の程度により開腹手術より視野がよい
  5. 全身麻酔が必要となり、手術のコストが倍以上になる
  6. 術者に十分な経験が必要である
  7. 腹膜炎症例では腹腔の十分な洗浄が困難

要するに、症例によって開腹手術がよいときと腹腔鏡手術がよいときとあります。癒着がきつい腹膜炎症例でなければ、開腹手術でも5cmのきずと1週間の入院ですむわけですから。

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